【2024年8月14日　ジェット気流の発見】

　「ジェット気流」は、一般的に大気中の狭い範囲に吹いている比較的強い風を指しますが、最近は、中緯度の対流圏内の偏西風帯において地表から約８ー10km の高度に存在する強い水平風の名称のみに用いられるようになってきています。国際線の航空機に搭乗していて「強いジェット気流のために到着が遅れる予定です」というようなアナウンスを聞いた方も多いのではないでしょうか。

　第二次大戦以前に対流圏上部での強い西風（ジェット気流）の存在が日本で観測されていたことは世界の気象学者の間でもほとんど知られていません。このジェット気流を世界で最初に発見した人は、高層気象台（現在の茨城県つくば市にあります）の初代台長であった大石和三郎氏です。大石台長は、日本上空の対流圏の上部に強い西風が吹いていることを1288回もの観測（1923年3月〜1925年2月）によって明らかにし、その成果をエスペラント (Esperanto) で書いた1926年の論文で発表しています。観測データが得られる上限の高度およそ10 km までの風の精度は、現在の観測機器によるものとほとんど遜色ないといえます。風速の高度変化は、放球した気球の位置の変化から算出していました。位置の変化を測定するための装置を載せた石製の台座（写真）は、今も高層気象台の敷地内に残っています。当時、対流圏上部に強い風が存在することは航空機のパイロットから報告される場合があっても、その存在を証明する観測事実はありませんでした。

　第二次大戦中、旧日本軍はこのようなジェット気流を利用して風船爆弾 (baloon bomb) を放ち、アメリカを攻撃しようとしました。1944年11月～1945年4月の間に約9000発がアメリカを狙って飛揚され、そのうちの300発が北アメリカ大陸に到達したと見積もられています。

　現在では、精度の高い気象予測を行うためには、世界各国の協力が不可欠になっています。この意味で、天気予報は平和の象徴であるともいわれます。これからも、気象学の成果が人々の生活を豊かにすることや防災・減災の分野、地球温暖化対策など、よりよい社会の構築に専ら使われることを願ってやみません。

【2024年８月７日　立秋】

　今日は立秋。暦の上では秋とはいえ、酷暑が続いています。この暑さの中、今週は補講と期末試験が行われており、学生は試験勉強やレポート作成などに取り組んでいます。

　79年前に広島市に原爆が投下された当時の気象観測記録（気圧、気温、降水量、湿度）が現存しているとの報道がありました。当時の広島気象台の建物は現在「広島市江波山気象館」として保存・利用されています。

　建物は、広島市指定重要有形文化財でもあります。気象館には、原爆の爆風で変形した窓枠や壁に突き刺さったガラス片、被爆した外壁など被爆の傷跡の一部、きのこ雲のスケッチなどが保存・展示されています。

　この気象館の見学を、地球環境論の講義の一環として行っています。